トランプ候補はセックステープの浮上以来特に女性からの支持を日々失いつつあり、ヒラリー・クリントン大統領誕生も間近かという見方が強まっています。
ところが、トランプも嫌だけどヒラリーにだけは投票したくないという有権者は少なくありません。(世論調査での不支持率も55%)上院議員から国務長官まで務めたヒラリーがなぜここまでアメリカ人の(あなたの?)嫌悪感を掻き立てるのか、不思議ではありませんか?
しかもミレニアル世代の若者や保守白人男性の間では、ヒラリー嫌いはトレンドのようにもなっている印象です。
一体なぜヒラリーは嫌われるのか? 今回はその理由である「ヒラリー嘘つき説」や、ヒラリー人殺し説」などファクトチェックしつつ、一方的な「ヒラリー嫌い」には反論してみました。ちょっと長いですがお付き合いください。
ヒラリー嫌いの理由(1)「汚れた洗濯物説 」
“汚れた洗濯物Dirty Laundry “というのは”内輪の恥“のことです。
メディアに上がっているミレニアル世代の若者、特に女性がヒラリーを嫌う理由はこれが多い。
夫のビル・クリントンの最初の大統領選以降彼の複数の女性関係がスキャンダルとなり、ホワイトハウスのインターン、モニカ・ルインスキーとの性的関係で弾劾裁判にかけられ罷免スレスレに追い込まれた。トランプ候補はヒラリーが「それを夫に許していた」さらに「ビルと関わった女性に対し口をつぐむよう強いるような 言い方をした 」などと非難している。
→ビルの女性関係に関しては弁護のしようがないが、ヒラリーはそれに巻き込まれたむしろ犠牲者。トランプが指摘するような彼女の行動や発言の真偽を証明できるものはない。
ヒラリー嫌いの理由(2)「 ヒラリー嘘つき説 」
ヒラリー最大の弱み、国務長官時代に私的な電子メールアカウントを使っていた問題。
彼女は大量のメールを国務省に提出し謝罪したが、トランプ候補はクリントン氏がまだ多くのメールを隠しているとして「嘘つきヒラリーCrooked Hillary」攻撃を執拗に繰り返している。
→調査に当たったFBIは、違法行為として訴追はしないが、非常に不注意な行為と批判。事件としては収束している。
→ファクトチェック機関Politifactでは、ヒラリーは2016年の大統領候補の中では「最も真実を語っている」候補者とし、逆にトランプ候補の発言の75%は間違い、またはほぼ間違いとして(7月現在)「最も真実を語っていない」としている。つまり嘘つきはトランプの方。
ウォール・ストリートジャーナルで長年クリントン夫妻の周辺を調べ尽くしたという著名なジャーナリスト、ジル・エイブラハムソンは「ヒラリーは根本的に正直で信頼できる人物である」とコメントしています。
ヒラリー嫌いの理由(3)「ヒラリー陰謀家説」
これはヒラリー陰謀説で最もよく取り上げられる3つの事件です。
1993年ビンス・フォスターの自殺:クリントン夫妻の親友だったビンス・フォスターの自殺。ホワイトウォーター・スキャンダルの渦中にいて口封じのための殺人ではないかという説。
→これまで5回の捜査がなされ、いずれもうつ病だったことが原因の自殺と確認されまています。
2012年ベンガジ事件:リビアのアメリカ領事館が襲撃され、大使ら4人が死亡が死亡した事件で、当時のクリントン国務長官が故意に彼らを見殺しにしたのではなどの陰謀説が飛び交っています。
→7回にわたって捜査が繰り返され、いずれもヒラリーに非はないという結果となっています。
2016年27歳の民主党員セス・リッチがワシントンDCで強盗にあって殺された事件:Wikileaksのジュリアン・アサンジが、セス・リッチが情報リークのソースだったかのような言い方をしたため、口封じまたは報復のために殺されたという噂が立った。
→ジュリアン・アサンジは後日その発言を撤回している。
ヒラリー嫌いの理由(4)「お金に汚い説」
トランプ候補は、クリントン・ファウンデーションにお金を寄付してもらっている代わりに、外国政府に便宜を図った。また企業と癒着して便宜を図ってきたと追及。
→これには全く根拠がないというのがマスメディアの論調。
そもそもクリントン・ファウンデーションが慈善団体であり、多くの社会貢献をしている。トランプ氏が問題にしているサウジアラビア政府などからの寄付金は、伝染病予防のために使われた。
ヒラリー嫌いの理由(5)「女嫌い説 」
例えば女性が顔をしかめると、「怒ってている」と思われるが、男性だと「熟考している」と思われる、というのは心理学的に証明されている。それと同じことがヒラリーにも起こっているという説。
彼女が討論会でトランプの発言に対して笑ったりすると、見下しているように見えるというのも同じ類。さらに男なら、キャリア、貫禄、経験になりうる経歴も、女性だからネガティブに取られているという女嫌い(Misogyny)説。
ヒラリー嫌いの理由(6)「ただヒラリーを知らない説」
8年間の上院議員、4年間の国務長官という実績は、大統領候補として非常に立派なものですが、それ以外にいくつか例を挙げると
– ビル・クリントンと結婚する前、ニクソン大統領の弾劾裁判の捜査チームに唯一の女性(弁護士)として参加していた。
– ファーストレディーの時代に国民皆保険を実現しようとして失敗、しかし全ての子供達に保険を与えるという法律の制定に成功。
– 元ファーストレディとして初めて上院議員に当選。911直後には救助復旧作業に関わった人々に対する医療補償も含めた予算の確保のために奔走。イラク戦争時には兵士の健康を守るための法案を提示。
– 国務長官時代には、これまでの国務長官の中では最高の122カ国を駆け巡り、アメリカと各国の関係改善のために奔走。
そもそもイエール卒業後、大手弁護士事務所ではなくChildren’s Defense Fundというノンプロフィットに就職、子供達など弱いものの見方として頑張ってきたヒラリーが、なかなかそういう面を見せられないのは、トランプ攻撃に対して常に守勢に回っていたというのもあるし、性格的には意外にも地味な実務家肌で、自分を良く見せるのが苦手だから。
・・・こうやって見てくると、確かに夫のビルの不倫など過去の事件やスキャンダルが雪だるま式に膨らんで「信頼できない」「お荷物が多すぎる」というネガティブな印象を与えているのは間違いないでしょう。
しかしファーストレディー時代から常に人々の目にさらされてきた彼女は、敵も多いしスキャンダルも事件に巻き込まれるのも当然という見方もできます。さらにこうした事象に関してはメディアからも司法機関やFBIなど からも調べるだけ調べ尽くされている。本も何冊も出ています。だからもう叩いても新たなチリもホコリも出ないはずなのです。
それでもトランプ陣営が彼女の過去を掘り起こし、いかにも何かありそうに「嘘つきヒラリー」コールをゆるめないのはまさに「言ったもん勝ち」のイメージ作戦でもあると思います。
真偽はファクトチェックすればわかることですが、それでも「信用しない」人の多くは「政治も大企業もメディアも信頼できない。」と感じている人たちです。

氾濫する情報戦の中で、当局やマスメディアが提供する情報はマニピュレートされていて信用できない、逆に不法にリークされた情報の方が信じられると感じられてしまう時代だということもあると思います。同じように、言葉を選んであらゆるアメリカ人に対して同等に話しかけようとしているヒラリーよりも、汚い言葉で差別的な発言をするトランプの方が「リアル」に感じてしまうのです。
そんな風に斜めに見ていないと、何が真実かわからなくなる、本当に疲れれる時代です。「ヒラリー嫌い」もそういった時代ならではの産物という考え方もできますね。でもそういう社会を作って来たのは私たち大人ですから、嫌でも何とかやっていかなければなりません。ホント疲れる選挙です。
さて、これを読んであなたのヒラリーへの考え方は変わったでしょうか?
最終的に決めるのは私たちの自由でもあり責任でもあります。はあー。
参考記事
http://www.huffingtonpost.com/bob-burnett/defending-hillary_2_b_10752080.html
関連記事:
https://megumedia.com/2016/10/31/why-does-hillary-disliked-new-email-scandal-develops/