続いてこれも月間「美楽」に掲載いただいたものの原稿ですが、2009年1月の就任式直後に書いたものです。
思えば8年前、日本人がアメリカ大統領の誕生にこんなに熱狂したことはこれまでなかったのではないでしょうか?
史上初の黒人大統領という以外に誠実で品格のある人柄・・・これまでアメリカ人に持っていたイメージとは違うという強いインパクトを受けたのは日本人だけではありませんでした。世界中で多くの人がオバマ大統領が率いる新しいアメリカに期待し、好意を感じました。その人柄を象徴するのがこの就任式のスピーチだったと思うのです。
文章が拙いのですが、オバマさんがどんなスピーチをしていたのか思い出すことができます。人間としての誠実さとか勇気とか、正直さとか寛容とか、これまでの大統領とは大きく違う印象のスピーチでした。アメリカの子供たちが最も尊敬するアメリカ大統領は、子供たちの人格形成に大きな影響を与えているのは間違いありません。この時代に育って大人になったミレニアルズがその前の世代と違うのは、オバマさんの影響が大変大きいと思います。
<オバマスピーチの本当の読み方 2009年1月執筆>
みなさんがこれを読むのは歴史に残るアメリカ大統領就任式から数週間後と思います。あのこれまで経験した事の無いような高揚感は、厳しい現実の前に消えつつあるかもしれません。でもだからこそ、もう一度オバマ大統領の就任スピーチを再訪してみてはいかがでしょう。なぜなぜこれは「後で効く」スピーチだと思うからです。
実は日本方から「なんとなくスピーチに元気がなかった」という意見が聞かれました。国中が放電しているかのようなエネルギーに包まれていて気付かなかったのですが、確かにあの勝利宣言のような勢いはなかったかもしれません。特に前半は厳しい現実をとても具体的に訴え、それに国民が一致団結して立ち向かおう、「さあみんなで元気を出して明日からやっていこう」という国民を励ます、暖かい激励スピーチでした。
アメリカ人にはこの「励まし」が必要だったのです。なぜならここ数年アメリカ人は本当に元気をなくしていました。終わらない戦争、経済の落ち込み、世界でアメリカが嫌われるのも初めての経験でした。また「テロの恐怖」を前面に出していたブッシュ政権のために、すっかり萎縮してしまっていたのです。(だからこそ若者はアニメ、マンガなど海外の、しかもバーチャルな世界で遊べる文化に魅力を感じたというのもあると思うのです。)
アメリカには軍事力以外にもたくさんある、素晴らしい文化や、経済力といったアメリカ人の良さや底力を忘れかけていたのです。
そして本当に素晴らしかったのはスピーチ後半です。「今アメリカに必要なのは、勤勉、正直さ、勇気と公正な態度、忍耐と寛容、好奇心、誠実と愛国心、古いけど真実の価値である。
そして、もし60年前だったら、白人のレストランで食事もできなかった身の自分が、こうして大統領になれたのも、こうした価値観が歴史を変えて来たからだ」とキッパリ。裏を返せば、アメリカという国が黒人大統領を生み出すまでに、どれだけの苦難の道だったか。でもそれが出来たのだから、他の問題も解決できるはず、という意味にもとれます。
オバマ大統領は、人権問題の最大の焦点のひとつ、キューバのガンタナタモ湾収容所の閉鎖や、元閣僚のロビー活動の制限など、政治の透明化による政府の信頼回復で、本当に国民と政府が力をあわせて問題を解決し、アメリカという国を再建しようと、就任2日目から行動を起こしています。
彼が訴えたアメリカの、いや人間としての本来の価値観が、言葉だけでなくどう行動に結びつき、新しい世界を作っていくのか? 考えると胸が躍るようです。そういう意味でオバマ大統領は今この世界のリーダーたるべき人間であり、このスピーチはこれからの私達の方向性を示すマスターピースなのです。
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今読み返して・・・こんな高揚感があった事を思い出すと共に、特に2010年の中間選挙でねじれ議会になって以来、目指していた政策がほとんど議会を通過しなくなって本当に大変なご苦労をされたことを考えると胸が痛む気持ちさえします。
でもオバマ大統領が残したものは決して小さくはありません。話が飛ぶようですが8年間の任期中スキャンダルが全くなかった大統領は初めてだったそうで、オバマさん自身それを大変誇りにしています。
リーダーとは、人間とはどうあるべきかという生き方をしっかりと示し、若者や子供達の真のロールモデルとなりました。今後オバマケアが撤廃されても、ガンタナモ湾刑務所が閉鎖できなくても、人の心、特にみずみずしい若い心に刻みつけられたものはそう簡単には変わらない。彼らが大人になった時にそれが現れてくる、まさに後で効いてくるのがオバマ大統領という存在だと思います。