ニューヨークのブルックリン・ミュージアムで先月始まった展覧会、デヴィッド・ボウイ展が大きな反響を呼んでいます。
展覧会自体は東京で去年の春まで開催されていたのと同じもの。東京はちょうど彼が亡くなった直後でしたが、もともとイギリスのV&Aミュージアムとボウイ自身が企画して、最初はボウイのふるさとイギリス・ロンドンで2013年にスタート。そして最後は人生後半を過ごしたニューヨークで終わるという計画でした。衣装や楽器、手書きの歌詞を始め400点が、5年間で12箇所を回った、1人のミュージシャンにスポットを当てた展覧会としては史上最大規模。
展示内容は世界共通ですが所々でその土地らしさも。例えば会場の入り口から闇の中にドーン浮かび上がっていたのは、あの有名な衣装。宇宙的で異様なカーブを描くボディースーツは山本寛斎によるもの。そのバックに煌めいているBowieの巨大な文字は2002年ニューヨークでのコンサートツアーで使われたものです。
そして展示は少年時代のボウイからスタートします。まだ本名のデヴィッド・ジョーンズとして音楽活動をしていた17歳の頃、「長髪の男を守ろう!」という社会運動をしたり、チベット難民の救済活動に参加したりと社会意識も高かった。でもあれだけのルックスと才能に恵まれながらなかなかブレイクできず、ダンスやパントマイムを勉強したり大変な努力をしてついにグラム・ロックスターになり、そして社会的メッセージが強いカルト・ミュージシャン、やがてあらゆる人に愛されるスーパースターに変貌していったプロセスがわかる。
中でも今アメリカ人の心を捉えているのが、宇宙をコンセプトにした一連のアルバム。1969年の「Space Oddity」はキューブリック監督の「Space Odyssey2001年宇宙の旅」にインスパイアされたもので、アポロ11号の月面着陸に合わせてリリースされ大ヒット。
1971年の「ジギー・スターダスト」では、異星からやってきた架空のスーパースターというキャラになりきり、宇宙人のような衣装やメーク、アンドロジナス両性具有、バイセクシャルというイメージも、今のLGBTQ時代を完全に先取り。
そして、宇宙といえば今アメリカは宇宙開発第二次黄金時代と言われ、特に民間によるロケット打ち上げが相次いでいる。中でも電気自動車テスラのカリスマオーナー、イーロン・マスクの会社、Space Xは2024年までには火星への商業飛行を実現する目標。先日の大型ロケット打ち上げ実験では、テスラのコンバーチブルを搭載して打ち上げ。
ダミー運転手も乗っていて名前は「スターマン」現在カーラジオから「Space Oddity」「Life on Mars」をかけながら太陽の周回軌道上に。
50年前のボウイの作品が今の宇宙開発にインスピレーションを与えているだけでなく、その歌詞が現代人に語りかけるものは少なくない。
例えば「Space Oddity」の宇宙飛行士Major Tomは何かのミスで地球に戻って来れなくなった・・・「宇宙では人ができることはない」・・・でもこれは宇宙船地球号にいる人間のことでもあるかもしれない。
「Starman」は宇宙人スターマンが地球を見ていて、姿を表すかどうか迷っている。地球人は自分を見てショックのあまり、この出会いを無駄にしてしまうかもしれない・・・
つまり攻撃したり、逆に心を閉ざしてしてしまうかもしれない。
また現在の商業宇宙開発、先に行ったモン勝ちみたいな、かつての植民地主義のような発想でやってはいないだろうか?
50年後の私たちは果たして宇宙に対して本当に心の準備ができているのだろうか? 地球に落ちてきたスターマン、デヴィッド・ボウイはそんなメッセージを残してくれた気がしています。
https://www.brooklynmuseum.org/exhibitions/davidbowieis