日本にいるあなたは普段移民について考えることはまずないと思います。身の回りにも移民はいないでしょうし、自分が「移民しようかな」と考えたこともないでしょう。逆にニューヨークに長く住んでいる人たち、特に別名「移民ビザ」と言われている永住権(グリーンカード)を持っている私たちはどんなに日本に縁が深くても事実上移民です。私はアメリカに住んで30年近くになるので、シェリーめぐみのアイデンティティは日本人である前に「移民」だったりします。
これをネガティブに言うと、日本人でもアメリカ人でもない人です。これは「中途半端な人」と言うネガティブな捉え方になりがちです。
だからこれを「自分は日本人でもアメリカ人でもある、一石二鳥だラッキー!」というところに持っていくためには、実はかなりの努力が必要だったりします。
特に全く知らない環境に飛び込んで、言葉も不自由で友達もいないし将来も不安。さらにこれまで打ち込んでいた仕事を手放して来た、なんて言うことになると、私ってなんなんだろう何してるんだろう?と言うアイデンティティクライシスに普通はなってしまうわけです。誰でも一度は通る道。
香純恭さんも、日本で大変な努力をして手に入れた女優、アクションスタントという仕事を手放して、家族の都合でアメリカにやって来ました。
慣れない生活と子育てに追われる中で、知り合いが殺陣のことを聞きつけて、10代の子供に教えて欲しいと行って来た。そこで体験授業してあげたらその子供がもう大喜び・・・でも恭さんがすごいのは「こんな子が1人でもいるなら絶対道場をやらなきゃ」と思いたったら吉日で、ハズバンドの出張中に自宅を勝手に道場に改造・・・と言うのがニューヨークで殺陣波涛流を開いたきっかけ。

と、ここで脱線・・・私もそうですが、殺陣に流派があるって知ってました? 正直言うとただの時代劇の振り付けなのかと思っていました。でも実は「芸道」と言う「道」。しかもルーツは歌舞伎で、大正時代あたりからもっとスピードを求めるトレンドと、映画の誕生で今でいう「アクション」に近い殺陣が生まれた。でもあくまで道だから、剣道や柔道のような規律とか鍛錬、所作が重んじられるんだそうです。
そしてここからが、アメリカの子供たちと日本の「道」との出会いの話。
それで最初は口コミで子供たちが集まって来たが、みんなアニメの侍や忍者に憧れてくるのでそれは大変。日本人のように整列ができない。道場で靴を脱ぐのを嫌がる。練習中にガムを噛んでいる・・・日本の当たり前はアメリカでは当たり前でないから、「靴を揃える」と言うことがなぜ君のためになるのか、というのを30分かけて説教する毎日だったそう。

それがしばらくすると子供たちが変わってくる、道場の雑巾掛けをしていると「変わります」と言ってくる・・
そして今回、波涛流NY4周年を記念して、日曜日に彼らの研鑽を披露する発表会が開かれた・・・小学生から高校生までの生徒たちが、恭さんに負けない驚くほど素晴らしい殺陣を披露してくれた。恭さんは「相当厳しく教えているから」と言っていたけれど、そう言う厳しい鍛錬や規律に向き合っている自分に自信やプライドが生まれて来ているのが目に見えてわかる、すごく凛々しく見える。
恭さんは以前のインタビューでこう言っていた。
「異文化を理解するのは平和の第一歩だと思う。彼らは成長して世界のリーダーになっていく。そういう彼らに相手に対する配慮、異文化の理解がなかったら世界が上手くいかない。そういう意味でもこの国で殺陣のクラスをやるのは自分の責任なのかなと思っている。」
・・・世界には移民がたくさんいる、もちろん恭さんはものすごく特別な人だけど、普通に生活しているだけで移民が果たしている役割はものすごく大きいことを再発見する時が来ているんじゃないかと思う。特に今、トランプ政権では移民の犯罪とかネガティブなことにばかりスポットを当てている。でも移民がいるから世界の経済がまわり、社会が発展し(また書きますけどアメリカなんか移民がいなかったら超高齢化してしまいます)文化交流が自然に起こり、世界平和に貢献しているんです。
移民について・・・また一緒に考えてもらえれば嬉しいです。
殺陣波涛流NYのウェブサイトはこちら
http://www.tate-hatoryuny.com/
殺陣波涛流NY代表、香純 恭さんのインタビュー、(私が去年お手伝いしたもの)
ニューヨークにホッピーを通じて日本の良さを伝えたいと奮闘する3代目石渡美奈さんとの熱い会話。