先週アメリカではあるテレビの超人気コメディドラマが突然打ち切られ、衝撃が走りました。これには実はトランプ大統領も大いに関係しています。
「Roseanne」というドラマは90年代に大ヒット、この春リバイバルされて、オリジナルを凌ぐほどのヒットになっていました。それがなぜ打ち切られたのか? その理由は、
主役でタイトルにもなっている女優Roseanne Barrのツイッターです。
彼女は以前から人種差別的なツイートをして批判されていました。またトランプ支持を公言していることで、嫌う人も多かった。強烈なキャラがそれをカバーしていたが、今回のツイートで一線を超えてしまった。
元オバマ政権の補佐官Valerie Jarret (黒人女性)を猿に例える言い方をした。このツイッターが出た数時間後に、ABCテレビは番組打ち切りを決定。
そこまでする必要があったのか? という声もありつつ、ほとんどのアメリカ人はこれはもう仕方ないと思っている。その理由は2つあります。
一つ目は、みなさんご存知のように奴隷制という暗黒の歴史を抱えたアメリカでは、人種差別や偏見は、人種差別的な発言も含めて、絶対に許してはいけないという社会の共通認識です。
アメリカには言論の自由がありますが、人種差別的な発言はその一線を超えたもの。
少なくともそう信じて来たのに、もしかしたらそれが揺らいでいるかもしれない、というのが2つ目の理由です。そしてその原因の一端を作っているのはトランプ大統領と言われても仕方ないと思います。
その一つの象徴が、打ち切り直後のトランプ大統領のツイート
「ABCテレビは私には謝罪したことがない。」わかりますか?ABCのニュースが、トランプ大統領を厳しく批判して来ている。(メディアは権力を批判するのが仕事。でもそれをトランプ大統領はフェイクニュースを言っている)それを謝ってないと言っているんです。
つまり、人種差別的な中傷と、政治的な批判は同じものというメッセージを世間に送っているわけです。
さらにここで改めて浮上したのは、トランプ大統領が白人至上主義者を強く否定していないという事実です。(歴代大統領だったらあり得ないこと。)
このために全米の白人至上主義者のグループが力を得ているだけでなく、有色人種やイスラム教徒へのバッシングやヘイトクライムが目立って来ている。少なくとも居心地の悪さ、社会に不安が滲み始めている。そういう時にこのツイートは、両方の側の不安や怒りを掻き立てるものになっている。
その背景には、歴史を知らない人が増えていること。アメリカが高度に多様化して不安を感じる白人が増えていることなどがあります。
しかし国のリーダーである大統領はハッキリと人種差別を否定していないように見える。むしろ彼が人種差別主義者と批判する人もたくさんいる。
しかし本当に怖いのは、こういう事が頻繁に起こるようになって皆が慣れてしまい、誰も強く否定しなくなる、それが普通になってしまうこと。このくらいの差別発言だったら許されてもいいんじゃないか、なんでそんなに目くじら立てるの? という意識が伝染病のように広がって、気がつけば人種間の分断は深まり、ギクシャクした不安定な社会になっていく・・・。
だからこそ、社会の責任あるメディアとしてABCは打ち切りを決めた。やめなければ、人種差別を認めることになってしまう。高視聴率だったからかなり痛いはずですが、そのまま続けてもスポンサーも全部降りただろうと考えられています。
日本にいると人種差別の恐ろしさにピンとこない人も多いかもしれませんが、これはどうでしょう?
20世紀前半に日本がやった戦争、広島長崎に原爆が落とされ多くの人が犠牲になった、第二次世界大戦のきっかけを作ったのは、ユダヤ人を虐殺したナチスドイツです。
そのナチスが台頭した理由は、ユダヤ人や有色人種の移民の手から、白人のドイツを取り戻そうという、白人至上主義のメッセージでした。
実は移民問題が深刻な現代のヨーロッパでは再び白人至上主義者が台頭してきている。第二次世界大戦前とよく似て来ていると言われています。
人種差別は差別される人を苦しめるだけでなく、社会全体を不安定にして戦争にもつながるきっかけを作るもの。テレビ番組の打ち切りどころではすまない恐ろしい火種なのです。
人間は進化しているようで結構同じことを繰り返しています。もっと歴史から学ばなければなりません。