090418
日本人も海外に出て行く人は増えていますが、誰もが知っているということになると、オノ・ヨーコくらいかもしれません。でも今それを超える存在になりつつあるんじゃないかと感じているのは、草間彌生さん。アートやファッションの世界で知らない者はいないというアーティストです。
日本にいる皆さんは、草間さんがニューヨークにいたから、アメリカではずっと有名だったんだろうと思っているかもしれませんが、実は違うんです。
だからアメリカ人の間でも「彼女いったいどこから出てきたんだろう?」
いやむしろ、なぜこれだけのすごい作品を作るアーティストが、これまで全く知られることがなかったのだろう? という素朴が疑問を持つ人も少なくなかった。
そんな時にまさにタイムリーな草間さんのアメリカでは初めてのドキュメンタリー映画「Kusama Infinity」が9月7日に全米で公開されます。
今年のサンダンス映画祭で大喝采を浴びた映画。といっても、先週のCrazy Rich Asiansのような大規模公開ではなく、単館上映の小さな映画館がほとんどで、ニューヨークではFilm Forumという、クオリティの高いインディーズ作品が見られるので有名なシアター。
これをいち早く見る機会があったので見てきました。
そして私が衝撃を受けたのは、彼女の神がかった天才、自身を消滅させてしまえそうな、没入感に溢れる作品世界はもちろんですが、
単身でニューヨークに渡ってきた草間さんの、想像を絶する努力。
彼女のアートは、親や周囲に全く理解されなかった。
早く描くクセがついたのは、親にやめろと言われるのを恐れて、と本人が語っている。
ジョージア・オキーフのアドバイスでニューヨークにやってきたのは1958年。
当時はまだ有色人種への差別が厳しかった、しかも女性の地位はさらに低かった時代。
でも彼女は、当時のニューヨークのアートシーンにどんどん入って行って、パーティなどでインパクトのあるファッションで人目を引き、ゲリラ的な手法で革命的な作品を見せて行った。

もちろん天才だから、当時のトップアーティスト、ドナルド・ジャッドとかアンディ・ウォーホルなんかがよってくる。ところが彼女を明らかに真似たコンセプトアメリカ人の男性のアーティストが作品を発表すると、そちらの方が大変な注目を集めて大ブレイクしていく。
こういうことが1度ではなく何度も起こり、草間さんはうつになって自殺まで試みる。
そして日本に戻ってもやはり受け入れられない時代が続く。負け犬だったのです。
あれほどの才能があってあれほどの努力をしても、社会と時代に拒絶され続けた。
心の病との戦いもあった。
でも50年たって、まさに時代が追いついた。そして草間さんは世界で最も売れる女性アーティストになった。
草間さんというアーティストは、日本の当時の閉鎖的な社会に生まれたからこそ、そこから飛び出して、ニューヨークで日本人女性だからこその苦労をし、その中で誰にも真似できないような作品を作り続けてきた。それをしっかり見せてくれるドキュメンタリー。というのも、映画監督も女性の若手Heather Lenzで、自身も作り手として、これを完成させるまで構想から17年もかかっている。女性のクリエーターとして強く共感できるという部分がたくさんあったのだと思う。
現代のアメリカでさえまだまだ残る女性への偏見や壁、ましてやアジア人などの有色人種だったらなおさら。そういうものを感じている人たちはすごいエネルギーをもらえると思う。
そして、クレイジーリッチとはまた違う意味で今のアメリカを象徴している。多様化時代、有色人種、そして女性の時代がやってきていることを感じさせてくれる作品でもあリます。
