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トランプ氏が最高裁判事に指名しようとしているブレット・カヴァノー氏のレイプ未遂疑惑は、上院での公聴会を終えて新たな局面に突入しています。
高校時代にカヴァノー氏にレイプされかけたと訴え出ている女性、大学教授のクリスティン・フォードさんと、全面否定するカヴァノー氏による上院公聴会が、先週木曜日に8時間にもわたって行われました。平日にも関わらず、2000万人が職場や学校で生中継に釘付けになりました。
[それまでの経緯は、こちらでお読みください
最高裁判事候補への#metoo3人目?急展開のセックス・スキャンダルを解説,
#metoo・公聴会・4人目の女性:アメリカの真の姿を曝け出す最高裁判事レイプ未遂疑惑 ]
まず先に答弁したフォード教授は、声が震えていたけれど抑えたトーンで冷静に対応。相手がカヴァノー氏だったのか?という質問には、確証を持って100%と返事。レイプ時の状況については明確に説明し、嘘を言っているようには思えない。トランプ大統領でさえ「否定できない」とコメントしたほど。
これはカヴァノー氏どう反証するんだろう? と思いきや、次に登場したカヴァノー氏は、
「それは自分ではない。これまで一生懸命積み上げてきた自分のキャリアを、選挙で負けた恨みを持つクリントン夫妻ら民主党が潰そうとしている」と終始涙と怒りで訴え続けた。
で終わってみると、トランプ氏と与党共和党は「フォード教授も信頼できるが、カヴァノー氏も信頼できることがわかった。だから明日上院で投票して、カヴァノー氏の指名を進める」
つまり、公聴会をする前からあった「人違い説」のまま、強行姿勢を通すことを決めました。
ところがここから新たな逆転劇が・・・
怒ったのはフォード教授が真実を言っていると信じる側。(世論調査では41%、カヴァノー氏を信じるという人35%より少し多かった)(yougov)
で何が起こったのか?
翌朝自らレイプ犠牲者という女性が、ある上院議員をエレベーターで捕まえた。捕まったのは、数少ない反トランプ派の共和党のジェフ・フレーク上院議員で、彼の票がカヴァノー氏の指名を左右すると言われている。その彼に対し彼女は、「カヴァノー氏に関してFBIの捜査をやり直させて欲しい 」と涙と怒りのアピール。
このFBI捜査というのは、いわゆるカヴァノー氏の身辺調査で、既に終わってはいるが、通常はこのような新たな疑惑が生まれた場合はやり直す。ところがトランプ大統領は「その必要なし」と突っぱねていた。
その後、フレーク議員は「カヴァノー氏への投票は、FBIの捜査をやり直してから」と共和党とトランプ大統領に条件を突きつけた。
これにトランプ氏が折れ、1週間の猶予が与えられてFBIの捜査が始まりました。
ところが、その捜査範囲は非常に限られたものという批判も多い。
<ホワイトハウスはこのFBI捜査を限られた範囲にフォーカスして行うように指示*>
フォード教授は、レイプされかけた時にパーティには3人の男性と、1人の女性がいたと答弁している。そのうちベッドルームにも一緒にいたというマーク・ジャッジ氏へのインタビューは決定しているが、他がどうなるのかはわかっていない。
また、イエール大学時代にカヴァノー氏に性器を見せられたと訴え出たデボラ・ラミレスさんはFBIの捜査を受けたが、3人目の女性、またフォード教授にもインタビューの申し込みは来ていない。
<公聴会で浮上したカヴァノー氏の飲酒癖はどうなるのか?>
フォード教授は、当時17歳だったカヴァノー氏はかなり酒に酔っていたと証言。しかしカヴァノー氏は「真面目で勤勉な高校生」というペルソナを崩さず、たまにビールを飲むくらいと証言。そこで民主党議員からの質問は「どのくらいビールを飲んでいたのか? 飲みすぎてブラックアウト(意識喪失)したことはあるか」という部分に集中。それに対しカヴァノー氏は明らかに居心地の悪そうな、イライラを抑えられない反応を見せ、質問した女性議員に対し「あなたは意識喪失したことがあるんですか?」と切り返す場面も。
また、それを聞いたイエール大学の同級生らが新たに、それは嘘だ、彼はひどい飲酒癖があったと訴え出て、当初カヴァノー氏が自ら集めた「カヴァノー氏は真面目な大学生」という同級生らの証言と食い違っている。
またFBIの捜査以外にも、公聴会で示されたカヴァノー氏の性格が、指名反対派の懸念を高めている。
<怒りを抑えられない人格や、公平であるべき判事が政治的すぎるという部分は
どうなのか?>
カヴァノー氏は冒頭陳述で、今回の問題は自分の指名に反対し、トランプ当選に恨みをもつクリントン夫妻ら民主党が仕掛けたもので事実無根。」と、多くの共和党議員の言い分を繰り返し強調。これに対し、中立の立場であるべき最高裁判事候補が、これほど政治的に偏っていていいのか? またカヴァノー氏は語気を荒げたり、涙を流したりという激しい感情を見せた。こんなに感情的な人が最高裁判事になっていいのか?
さらに、公聴会でもう一つの焦点になったのはFBIの捜査についての答弁。
カヴァノー氏に対し複数の民主党議員が何度も「このような言った、言わないの公聴会ではなく、汚点がないのならFBIの捜査に委ねたほうが、かえってスッキリするのではないか」などと質問したのに対し、一度もはっきり答えなかっただけでなく、黙り込んでしまう場面もあった。これを見て指名反対派は、彼に何らかの汚点があることを確信しただけでなく、トランプ大統領の「FBI捜査必要なし」という意見には絶対に反対することができない、高度に政治的な立場の指名候補だということを感じさせた。
で、ここで再び世論を見ると、10月1日現在カヴァノー氏を「指名するべきでない」という意見が37%、「指名すべき」35%をわずかに上回っています。(CBS)
果たしてFBIの捜査結果が双方が納得できる結果になるのか?
その答えは「決してならない」と思います。
結局指名賛成派は何があっても賛成、反対派は反対という、トランプ当選以来の完全に分断された、トランプ派=共和党と反対派=民主党の対立は一層明確になる結果に。
つまりカヴァノー氏が指名されても、されなくても、アメリカの分断は止まらず、むしろ深まるばまり、そのままトランプ大統領への事実上の信任投票となる11月6日の中間選挙になだれ込むことになりそう。
*update: トランプ大統領は1日午後、FBIに対して捜査に制限を設けないことを改めて指示したと報道された。