異例のグラミーでしたね。
奇しくも当日ヘリの墜落事故で亡くなったNBAスターのKobe Bryantの追悼のトーンが最後まで流れていた。と言うのも、Kobeが国民的英雄だったのはもちろんだが、グラミー会場のStaple Centerは、彼が所属しNBAチャンピオンに5回も輝いたLos Angeles Lakersの本拠地だったというのも大きい。
司会のAlicia Keysが「ここはKobeが建てた家」と言っていましたがまさにその通り。コービーの家で行われたグラミーだったんですね。
そしてAlicia Keysがまるで即興のように歌い出し、Boys II Menが加わったアカペラのIt’s So Hard to say goodbye to yesterdayは涙なしには聞けないものでした。
その他にも冒頭のLizzo、いろんな肌の色の体のサイズのダンサーが登場し、新しい時代の到来を感じさせたし、Lil Nas XとBTS のオールスター パフォーマンス、Demi Lovatoのカムバックなど豪華けんらん。
しかしショックだったのは 主要4部門をBillie Eilishがそうなめにしたこと。
1981年のChristopher Cross以来史上二人目。これは素晴らしい快挙だけど、音楽ファンとしては素直に喜べない反応も。
もっと他のアーティストにチャンスをあげてもよかったのでは?という声もあるし。
グラミーはアーティストによって人生かけた目標。例えばカントリーシンガーのタニヤ・タッカーが人生発のグラミーを47年のキャリアで初受賞したように。
それを18歳で全部とってしまう、その重圧たるや想像を絶するものが。
本人も途中からOh No! と反応したり、アルバムはアリアナ・グランデが取るべきだったとスピーチするなど・・・それが本音だと思う。
しかもJFN #オンプラでは何度も話しているように、この4つの賞には常に論争がつきまとう。
グラミーの投票メンバーの年齢層が高く、男性(7割)、白人(7割)に偏っているために、主要4部門は常に白人と男性に偏る傾向があった。
つまりダイバーシティがない(多様性の欠如)とずっと批判されていた。
それを改革するために去年月グラミーの初の女性CEO大抜擢されたばかり。ところが彼女はグラミー直前で不明確な理由で解雇されるなど内紛も伝えられていた。しかし彼女の短期間の尽力で、今回は女性や若いアーティストのノミネートが増え受賞も増えた。
しかし、人種のダイバーシティでみるとまだまだ。
かつてアデルが受賞した時「この賞はビヨンセがとるべきだった」とスピーチしたけれど、特に黒人やヒップホップやアーティストはどんなに売れていても結局主要4部門は取れず、ラップやR&Bといったカテゴリーに押し込められての受賞のみ。
今回もヒットの記録を作ったLil Nas Xは、ベストデュオとベストビデオだけ。
同じく記録的にヒットしたBTSは、ノミネートすらされていないのは絶対におかしい。
ベストラップアルバムを受賞したTyler The Creatorははっきりと
「自分はラップではなくポップアーティスト。誠意のない誉め言葉をもらった感じがする。」とコメント。
実際アメリカではラップやヒップホップはもうメインストリームで「ポップ」と呼ぶのが妥当。そういう意味でもグラミーの時代遅れは目立つ。
もちろんBillie Eilishは素晴らしいアーティスト。でもこういう問題を孕んだ中で、4つ独占するほどだったか?白人だったからじゃないのか? という世間の批判を、これから背負い続けなければならないのが本当に可哀想に感じてしまう。差別偏見は結局、皆を傷つけるものだということを知らなければならないと思う。
そんな中Alicia Keysが象徴的なスピーチをしている。
「2020年新しい時代に私たちも新しさが必要。ネガティブなエネルギーも古いシステムももういらない。私たちのダイバーシティをレスペクトしてほしいし、人と違うことで危険に晒されたくない。もっとリアルにあらゆる違いを受け入れてほしい。だから今日は、 そういう真実を体を張って共有してくれているアーティストをセレブレートしよう。」
これはもう音楽を超えて、世界中の人に響くメッセージ。
これをピアノで弾き語りながら、静かに説得するようなトーンで語った。「何か違う」と感じていた私のようなオーディエンスもこれを言ってくれたおかげで少しは気持ちが収まった。冒頭のKobe追悼からこのスピーチまで、Alicia Keysだったからこそ、混乱することなく最後まで流れて行ったグラミー。
そういう意味でAlicia Keysは今年のグラミーを救ったと思うし、彼女にはぜひ司会者 of the yearのグラミーをあげたいと思った。