今日の話題は日本で今月公開される「Harriet」という映画。
本当は先月話したかったトピックです。オスカーにノミネートされた映画ということもありますが、2月はBlack History Monthだったから。
Black History Monthはアフリカン・アメリカンが歴史に残した偉業を振り返りセレブレートするという月間で、アメリカ社会をあらゆる肌の色の人が幸せに生きられるよう変えて来ただけでなく非常に重要な発明をしたのに、黒人だったという理由で未だ知られていない人が多い。
例えば2016年の映画Hidden Figures(邦題ドリーム)では実は1960年代の宇宙開発に黒人女性が大きく貢献したという内容で、アカデミー賞にもノミネート。こういうストーリーがまだまだたくさんある。
Black History Month自体はどちらかというと教育が主であまり派手ではない。さらに「わざと2月という一番短い月を選んだ」なんていう黒人の間の自虐ジョークもあるくらい。
そんなわけで、私も毎回ダイバーシティが重要という話をしているわりには、なかなかBlack History Monthの話をする機会がない・・・そこで、もう3月にはなってしまいましたが、この映画日本公開は3月ということもあるので、今日紹介したいと思います。
映画「ハリエット(Harriet)」
ハリエット・タブマン(Harriet Tabman)というのは黒人なら誰でも知っている名前。
映画でハリエットを演じたシンシア・エリヴォは、アカデミー賞の主演女優に今年唯一の黒人俳優としてノミネート。
黒人奴隷だったハリエットは、南部メリーランドのプランテーションからフィラデルフィア、さらにはカナダまで数千キロの道のりを徒歩で逃げのびます。
当時は捕まればリンチになる、殺される、家族も犠牲にするかもしれないリスクを犯してでも自由になりたいという黒人が後を絶たなかったが、彼女もその一人。
そんな彼らを自らの命の危険を顧みずに多くの個人や教会などが助けた。こうしたシステムはUnderground Railroadと呼ばれた。
ハリエットが特別なのは、一度逃げ延びた後、何度も南部に戻って70人以上の奴隷の逃亡を助けただけでなく、南北戦争では北部のスパイとして勝利に貢献。女性の参政権獲得にも大きな役割を果たしたこと。
そんな歴史が奴隷解放されて100年以上経ってから、こうした映画などを通じてようやく白人や一般人に知られるようになっている。
そしてその偉業により、彼女の肖像画が20ドル札になることがオバマ政権下で決定していて、今年2020年にそのデザインが発表され、2030年には新20ドル札が発行される予定で、そうなればお札に初めて黒人の顔が印刷されることに。
ところが去年5月、トランプ政権はその決定を覆す発表。
「現行デザインの不備」により、2026年までデザイン発表を延期する。実際に進めるかはその時の政権が決めるとのこと。
この決定にはピープル・オブ・カラーのコミュニティだけでなく、女性たちもがっかり。(アメリカでこれまで女性の顔が紙幣になったのはたった一人、ジョージ・ワシントンの妻マーサ・ワシントン)
実はここに裏話が・・・現行の20ドル札の肖像はアンドリュー・ジャクソン元大統領。トランプ氏と同じアンチ・エリートのポピュリストで、奴隷の所有者でもあった。そして、トランプ大統領はこのジャクソン大統領を敬愛している事で知られている。お札を発行する財務省の職員によれば、トランプ大統領はこの「交代」に反対だったという。
2020年の今、お札の上でも人種やジェンダーをめぐる論争が続いている。
だから「ハリエット」はただの歴史映画ではない。今アメリカ、そして世界を支配しているパワーが何かを知るためにも見るべき映画だと思う。(日本で3月27日から公開)