06-16-20
(JFN/TOKYOFM 全国36局ネットのOn The Planetでレポートした内容に加筆再構成しています。)
ハリウッドではようやく映画の撮影が解禁に向けての動きがスタート。
そして2021年アカデミー賞延期開催が決定!
予定されていた2月28日から4月25日に。エントリー締め切りも2ヶ月延長。また前もお伝えした通り動画配信も対象に。さらに2025年までに「白すぎるオスカー」も正す、つまりもっと白人以外が作る映画や出演者に公平に受賞の機会を与えるためにプランを実行する。その中には賞の投票をするメンバーにも白人以外と女性を倍増させるなどが含まれている。
これはもちろん今世界を巻き込んで続いている、人種差別への反対運動の影響。
アメリカのエンタメやメディア業界でも人種差別に取り組む動きが生まれている。
少なくとも人種差別に積極的に反対するメッセージを出さなければ、賛成していると思われても仕方ないという、これまでになかった状況になっている。
同時にアメリカ人は今、黒人差別についてもっと知らなければ!という気運が高まっている。(実はアメリカの学校では黒人の歴史はほとんど教えられない)
ニューヨークタイムスのベストセラーリストは関連の本がずらり。
そして映画の世界でも、ネットフリックスのトップにはブラック・ライブス・マターに関わる作品の特集が現れる。無料で見られる映画も。
1960年代の公民権運動を指導したキング牧師が主役の映画、エヴァ・デュバーネイ監督の「セルマ(日本題はグローリー・明日への行進)はアメリカではItunesやアマゾンプライムで無料で見られる。
この「セルマ」を見ると、今問題になっている黒人に対する制度的人種差別とはどんなものなのか、それに対しどう戦ってきたのかがわかるので、ちょっとご紹介。
映画の舞台になった1965年というのは、その前の年に公民権法が制定されて、黒人も含めあらゆる肌の人が憲法の下で平等のはずなのだが、アメリカ南部を中心に黒人へのリンチ(殺人)や暴行が続き、警官は守ってくれない。
そして投票の権利もあるのに投票できない。
なぜならアメリカでは投票するためには選挙人登録が必要だが、それがあらゆる理由をつけて拒否される。
映画の中では、何度も登録に足を運んだ黒人女性が「アラバマ州の67人の裁判官の名前を全部言え」と言われて諦めるシーンが。
キング牧師は正当な選挙権を得るための運動として、アラバマ州セルマから州都モンゴメリーまでの90キロ近い非暴力の更新を計画。
ところが、ただ静かに歩いていただけのデモ隊は、2つの都市を結ぶ橋の上で待ち構えていた警察に力で粉砕される。(このビデオは映画ではなく実際の”血の日曜日”の記録映像)
しかし女性を含む無抵抗の黒人を打ち倒し馬で蹴散らす残酷な場面が全米の生中継されたために、怒った白人たちが立ち上がり、最終的には白人も黒人も共に2万5千人もの人が行進。その結果平等な投票を保証する法律が制定された。
黒人に対する暴力が広く知られたことがきっかけで世論が一気に変わるというのが今と驚くほどオーバーラップする。
実はこの「セルマ」大行進から50周年の2014年に公開されたが、アカデミー賞にノミネートはされたが受賞したのは主題歌のみ。
実は当時ニューヨークで起こった、警察暴力により黒人が殺された事件に抗議して、監督らが「息ができない」というTシャツを着てプレミアに出席したところ、それがアカデミー会員の反感をかってボイコットされたからだという。当時始まったばかりのブラックライブスマター運動は多くの白人にとって今とはほど遠い異端な存在だったし、論争や政治的な問題に発展するのを恐れたことは明白だ。
今だったら考えられない!?と思うかもしれないが、ついこの間まで多くの白人たちが人種差別を正面切って語る時代ではなかった。そしてこのボイコットの事実が浮上したのはジョージ・フロイドの事件で抗議運動が盛り上がってから。それまでは、アカデミーの反感もボイコットも誰にも批判されなかった、なんという世論の変わりよう!と驚く。もし今年公開だったら間違いなく作品賞とったはず。
そして投票の問題。実は黒人はじめマイノリティへの様々な投票妨害は今も続いている。これは11月の大統領選に向けて大きな問題となるはずなので、またお伝えします。
ちなみにセルマを見た後に見るといいのは、同じ監督によるドキュメンタリー「13th」これは現代の警察・司法が黒人を何世代にも渡り痛めつけている現実と、それでものすごいお金を儲けている人がいる、未だ黒人は奴隷であるという恐ろしい内容。日本でも見られると思うので興味があればぜひ。機会があればまた紹介します。
また奴隷制時代を舞台にした映画では以前紹介した「ハリエット」が今日本公開中なので、そちらもぜひ。
Selma トレイラー