(JFN/TOKYOFM 全国36局ネットのOn The Planetでレポートした内容に加筆再構成しています。)
3-23-21
Roam ローム=あてもなく歩き回る、うろつく、放浪する、
この言葉が昔から好きだ。
自分が移民というのもあるが、子供の頃から体は定住しているのに、心はいつもどこかをさまよっているような落ち着かない感覚を強く持って生きてきた。言わないだけでそういう人は他にもたくさんいるのだろう。それもあってこの映画には目を開かされるものがあった。
Nomad Landノマドランド
ベネチア映画祭金獅子賞、ゴールデングローブ作品賞、そしてアカデミー賞最有力。
主演はすでにオスカーを2回取っているフランシス・マクドーマンド で今回も主演女優の最有力候補。
監督のクロエ・ジャオはアメリカ在住の中国人女性監督でマーベルの新作も撮っている、今最も注目の若手ディレクター。
ということで興味を持って見たのだが、最有力という理由がわかった。
そしてこれを見ると、今のアメリカ人の気分がわかる。
やはりこれもアメリカでコロナで50万人以上亡くなった年だからこその作品。
以前「ミナリ」という映画をご紹介しました。(これもアカデミー賞候補)韓国系アメリカ人移民の家族の物語で、大きな事件が起きるわけでもなくとても静かな映画で、中西部の大自然の目にしみる緑に癒される。
これも同じようにとても静か、
でも癒されるというよりは、じわじわと胸を掴まれる、ぎゅーっと拗られる。
うまく言えないのは、これまで味わったことがない感覚があるから。
映画「ノマドランド」の原作は「ノマド 漂流する高齢労働者たち(日本でも出版)」
アメリカ西部で、バンを住処にしてノマドのように放浪しながら働いて暮らしている60代〜70代の男女について書かれたノンフィクション本。
なぜ放浪しているのか?リーマンショックで家や貯金など全てを失ったのがきっかけ。
実はこういう人がかなりの数いて(はっきりした人数は不明だが、彼らを含めアメリカのホームレス人口全体の数は現在55万人もいる) バンを改造して住み移動しながら、仕事を見つけては働いて稼いだお金とわずかな年金でのかなり厳しい生活。
砂漠の真ん中の公共の場所に車を止め、緩やかなコミュニティも存在する。
こうしたコミュニティに属する実際のノマドも、映画に出演している、それも結構重要な役で。
彼らはそれぞれに心の傷を抱えていて孤独で、ふるさとはあっても戻れない。
その反面、自分の力で自分らしく生きることに誇りを持っている。
そこにはアメリカ人が最も大切にしている「自由」そのものが、砂漠を照らす陽の光のように輝いている。
ホームレスではなく「ハウスレス」だと。主役のファーンが言うんですが、フランシス・マクドーマンドの演技はすごい。
セリフがいらない名演技。
そして彼らが放浪する大自然の雄大さ。(でもMinariと違ってほとんどが砂漠 岩とサボテン)
彼らが不器用に触れ合う時に生まれる、静かな友情や切ない思い。
人生というものが痛切に悲しくて愛おしく感じる。
私も含めてほとんどの人はこの1年何かを失ったか失う恐れを強く持って生きている。そういう私が見終わった時思えたのは、答えはなくてもいい、今この瞬間に生きていればいいということ。
どこにいても、それができるのが魂の自由だということ。
「ノマドランド」日本では3月26日公開。