JFN/TOKYOFM 全国36局ネットのOn The Planetでレポートした内容に加筆再構成しています。)
04-15-21
ビリー・ホリデーにどんなイメージお持ち?
1930〜50年代に活躍したアメリカを代表する黒人ジャズシンガー
ハスキーでけだるい歌声が魅力、髪にクチナシの花を飾りLady Dayと呼ばれた
God Bless The Child, Don’t Explain などの名曲を書いた。
ドラッグが元で44歳の若さで亡くなった。
でもこの映画「The United States vs. Billie Holiday」(監督はプレシャスのリー・ダニエルズ)を見ると、全く知らなかった彼女に関する史実がわかる。
そもそも「アメリカ合衆国対ビリー・ホリデー」というタイトルの意味。
これは彼女が被告としてかけられた裁判の名前で、罪状はヘロイン所持。
でもこれは建前で、事実は彼女に「ある歌」を歌わせたくなかったから。
その歌は「Strange Fruits」という曲で、日本題は「奇妙な果実」
歌詞は「南部の木に奇妙な果実がぶら下がっている」果実は死体、つまりリンチで殺された黒人のこと。
人種隔離政策が厳しかった当時、例えば黒人の男は白人の女に話しかけただけでレイプしたと嫌疑をかけられ、裁判の前にリンチで殺されることが頻発し社会問題になっていた。それを告発する歌だった。
これが大ヒットしたことで彼女のソロキャリアはテイクオフしたが、この歌が社会を刺激するということで歌わせたくなかった政府が、麻薬取り締まり局に命じて黒人の囮捜査官に恋人のふりをさせて入り込ませ、ヘロイン使用の現行犯で逮捕。裁判で有罪になり服役。
その後当局の妨害をあいながらもカムバックしたが、ポケットに麻薬を入れられるなどの偽証工作にあうなど常に当局のターゲットとしてハラスメントを受け続け、メンタル的にも肉体的にも弱って行く。
最後は肝硬変が原因の心臓発作で亡くなるが、死の間際に病院のベッドの上で逮捕され、手錠をつけたまま亡くなった・・・というこれまであまり語られなかった史実を、演出を加えながらもほぼ正確に伝えている。
アメリカ政府当局がここまで彼女を追い詰めた理由は、当時激しくなっていた黒人への差別撤廃運動(公民権運動)に大きな影響を与える危険分子と考えられたから。
そもそもジャズ自体も、人の心を乱す危険な黒人音楽とされていた時代。
それが今注目されるのは、やはりBLM、アジア系へのヘイトクライムなど、アメリカの人種問題に改めてスポットが当たっているからでもある。
それにしてもアメリカの警察や司法当局の黒人への弾圧はひどい。これは1940年代だが、60年代の公民権運動時代も卑劣なことをたくさんしている。やはりアカデミー賞ノミネートの「ユダとブラックメサイア」でもそれが生々しく暴かれている。今の警官暴力もこの流れが続いているんだろうなと思わざるをえない。
アカデミー賞では作品賞にはノミネートされていないが、ビリー・ホリデー役のアンドラ・デイ(この芸名はビリー・ホリデーのニックネ=ム、レディ・デイから取ったんだそう。)が鬼気迫る演技で主演女優賞にノミネートされている。
日本公開は未定