バドライト凋落に見る、アメリカZ世代マーケティングの困難さ How Bud Light Lost Its Mojo and Gen Z Marketing

  • ライトビールでアメリカでトップシェアを誇っていたバドライトが、ボイコットにあい転落した。
  • その凋落ぶりはまさに目眩くもので、アメリカ人に大きなショックを与えた。
  • 背後にはアメリカZ世代の高度な多様化、政治的な分断と大統領選も絡む思惑が複雑に絡み合っている。日本からは非常に見えにくい構造をお伝えしたい。

原因はたった1つ、とあるトランスジェンダー女性をインフルエンサーに使ったからだ。

バドライトといえば、世界的に知られるバドワイザーのライトビールで、日本でいえばアサヒやキリンに当たる超人気ブランドで、商品PRにはTikTokやインスタのインフルエンサーも多数起用している。その1人、ディラン・マルベニーさんという、TikTokで1000万人以上、インスタグラムでも180万人ものフォロワーを抱える、トランスジェンダーのトップ・インフルエンサーが、今回の炎上のきっかけとなった。

バドライトは、マルベニーさんの顔が描かれた特注の缶ビールを彼女にプレゼントした。(市販品ではない)インフルエンサーだから当然その自撮り映像をインスタに上げる。その直後、大炎上が起きたのだ。

それが不買運動につながっていく。4月初旬に炎上してから、バドライトの4月単月の販売数量は前年同期比で21.4%減少。家庭用ビールでは、4月16~22日の週で売上高が26%(同)減少した。バドライトの親会社アンハイザー・ブッシュの複数の工場には、爆破予告まで届いたという。バドライトの親会社バドワイザーは、アメリカでのシェアトップの座からで2位に転落。今も回復の兆しはない。

なぜこれほどの炎上が起きたのか?

まず、トランスジェンダーはアメリカの政治的分断の火種となっていることだ。保守共和党が強い州では、LGBTQ特にトランスジェンダーの権利を縮小する法律が次々に成立している。ここには来年の大統領選を見据えての政治的思惑が強く働いている。

ではなぜバドライトはそんなLGBTQをインフルエンサーに使っていたのか。
実はバドライトがLGBTQを支持するメッセージをマーケテイングで出すのは、今に始まった事ではない。
いかに業界トップシェアと言っても、クラフトビールやワインの人気の高まりの中で、
次世代の若者に支持してもらうことが必要だった。人種・ジェンダー的にも非常に多様なZ世代に支持されるためには、LGBTQの支持は今や必須なのである。
これは、毎年ニューヨークで200万人を動員するLGBTQパレードにひしめき合うトップスポンサーを見ればよくわかる。

Z世代は人種・ジェンダー共に非常に多様な世代で、ダイバーシティのメッセージを出していない企業は、支持されないと言ってもいいほどだ。

つまり若い世代の多様な消費者を取り込もうとすれば、年配保守層の怒りを買う。今回のバドライトはその極端な例と言っていいい。
さらに付け加えたいのは、当初保守派からのバックラッシュが起きた際、バドライトは中途半端な謝罪をした。これに対し若いZ世代は「LGBTQを支持すると言っても、結局は単なるマーケティングだったのだ」と幻滅し、若い世代からの支持も失ってしまった。こうした表面的な立ち位置を、Z世代は最も嫌うのだ。

アメリカで若い世代の支持を得るには、まずZ世代の価値観を知るべきだ。でもそれだけでもだめ、分断する政治状況も全て含めた広い視点が必要だ。これが次世代のマーケティングをさらに難しくしているのだが、この新たなチャレンジで一歩先に出たものが、成功を手にすると言ってもいいだろう。

例えばアメリカ最高裁が6月末に出した、アファーマティブアクションの違憲判断も、今後の企業の動きに大きな影響を与えていくはずだ。これはまた別の機会に解説したい。

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