まずここからは先週ポストしたブロードウェーの仕組みとトニー賞今年の見所。
060419
ロングランの仕組みとトニー賞今年の見所
今年もトニー賞の季節がやってきました。
ブロードウェーの最も優れた作品、出演者などに与えられる最高の名誉。
今年も大いに盛り上がっている理由の一つは、ブロードウェーのチケット売り上げと観客動員数をまたまた記録更新したから。
2018年の売り上げおよそ2000億円、観客動員は1500万人で7%増加。わずか座席500〜1000人程度の劇場41件でこれだけ稼ぐのはものすごいこと。
演劇、ミュージカルの新作に与えられる賞という意味では、映画のアカデミー賞に当たりますが、大きく違う点が2つ。
まずトニー賞にノミネートされ、賞を取れるかどうかは最高の作品である証なだけでなく、その作品の運命を左右、つまり、ロングランできるかどうかがかかってくる。
ロングラン・・・よく聞く言葉だと思いますが、
ブロードウェーでロングランしている作品、例えばライオンキング(22年)、ウィキッド(16年)オペラ座の怪人(31年)や、3年経ってもいまだにチケットが取れないハミルトンなども、こんなに長く続けると最初から決まっていたわけではありません。
開幕してもチケットの売り上げが7割を割り続けると、場合によっては数週間で閉幕する作品も。そして巨大な予算がかかる特にミュージカルは、ロングランして初めて利益が出る。というわけでトニー賞は非常に重要。
もう1つ違う点は、俳優としてトニー賞を取るということは、アカデミー賞よりステータスが高い。映画より舞台で演技する方が難しいとされているから。
もともと舞台俳優から映画に転向した人が、売れてからブロードウェーに出て、トニー賞をもらうのが夢だったり、逆に舞台は初めての俳優が酷評を浴びたり・・・
そして今年も演劇部門のベストアクターに、ハリウッドのAリスターがノミネート。動員に貢献しています。
アメリカのテレビ界の内幕を暴いたお芝居「Network」のブライアン・クランストンは、超ヒットドラマ「ブレイキング・バッド」で知られるハリウッドの演技派トップ。彼が最有力候補。
次に注目なのは「To Kill A Mocking Bird」のジェフ・ダニエルズ。映画「Mr. ダマー」でのジム・キャリーとのコンビでコメディ俳優として有名だが、アメリカ人種社会の深い闇を描くシリアスな小説の舞台化で注目。
さらに意外な注目株は「Burn This」のアダム・ドライバー。スターウォーズのカイロレンが、セクシーな男女の人間ドラマに挑戦。(彼はミレニアル世代のドラマ「Gils」にも出ていて私は密かにファン)
作品としての注目作は今年はライオンキングやハミルトンみたいな超大作はないけれど、
ミュージカル部門の最有力候補は14部門ノミネートのフォーク・オペラ「Hadestownハデスタウン」
Anaïs Mitchell(アナイス・ミッチェル)というシンガーソングライターのコンセプトアルバムをベースにしたギリシャ神話の「オルフェ」の現代版で、あらゆる批評家が絶賛。
これはとにかくまず曲が素晴らしすぎて、聞いたら絶対見に行きたくなってしまうとお約束。
だいたいこれをポストしたのもこのビデオを共有したかったから・・・オリジナルキャストがCBSのモーニングショーでパフォーマンスしたビデオ。
今世界のどこにいても、ネットでどんな映画もドラマも見れる時代、でもブロードウェーのオリジナルはニューヨークに行かないと見られない。
作品のレベルの高さ、ライブならでは醍醐味は一度は体験する価値は絶対あるが、とにかくチケットが高いし、見れても一生に一度という人がほとんど、
でもトニー賞中継はなら話題作品からのパフォーマンスが満載!というのもオスカーとはまた違った価値があると思う。
061019
<2019年トニー賞、受賞結果のアップデート情報>
予想通りハデス・タウン」がベストミュージカ賞、音楽、照明など8部門で受賞。特にRachel Chavkinが女性としては珍しいディレクター賞受賞が話題になった他、作品のベースになったアルバムのアーティストAnaïs Mitchellもオリジナル・スコア賞を受賞。
またリバイバル・ミュージカル賞も受賞した「オクラホマ」では、史上初めて車椅子のアクトレスとしてAli Strokerが助演女優賞を受賞。その他女性、ピープルオブカラー(白人以外の人々・アジア人も含む)、LGBTQなどの活躍が目立ったトニー賞。
引き続きデイバーシティ&インクルージョンを目指す姿勢を明確に発信した一夜でもありました。
笑ったのは、お芝居でのベスト俳優を受賞したブライアン・クランストンがスピーチで開口一番「やっとストレートで年配の白人の出番が来たよ」とコメントしたこと。これには会場は大爆笑。
その彼はバックステージで「多様な人が受賞したことは本当に嬉しい。これはアメリカ全体へのメッセージだよ。」
アメリカでは政治が激しく二極化する中、人種間の軋轢が高まり移民への偏見、女性蔑視の傾向も浮かび上がって来ている。そんな中でニューヨークというもともと多様な人が生きる街を本拠地とするブロードウェーは、特に2016年のハミルトンあたりから、ますます多様な作品を上演しようという傾向が強くなっています。多様なお客を呼ぶためには多様なキャストやスタッフであるべき、という考え方は、ハリウッド映画よりも半歩くらい先を歩いているかも知れません。